トリアージ

◆ 語源 (2016.2.11更新)

「トリアージ」の語源は、フランス語のtrierで、「選別」を意味します。元来、フランスの繊維商人が、羊毛をその品質から幾つかのクラスに分ける時に用いた言葉だそうです。
災害時医療において、負傷者等が同時に多数発生した場合に、医療体制・設備・器材が絶対的に不足するため、傷病者の重症度と緊急度によって分別し、治療や搬送先の優先順位を決定する事を、トリアージと言います。


◆ 歴史 (2017.11.22更新)

(1)トリアージの原型
トリアージの考え方は、フランス革命以降の総力戦の中で、医療が軍事の一部となり、多数の負傷者をうまく取り扱うためにフランスの衛生隊(野戦病院)が始めたものだそうです。

その原型は、フランス革命時代ドミニク・ジャン・ラレイが、戦傷者の身分に関係なく医学的な必要性だけで選別した事に始まると言われています。ラレイ以前の戦場医療は、患者の身分や社会的必要性で選別・実施されていましたが、フランス革命により身分に関係無く、純粋に医学的必要性のみに基づいて治療の選別が始まったのです。

(2)ナポレオン戦争時代のトリアージ
フランス革命からナポレオン戦争時代になるとトリアージの意味は変化し、軍事的必要性において選別する方式へと変質しました。即ち、(戦線復帰不可能な)重傷者は見捨てられ、兵士として戦線復帰可能な者に医療資源を投入し、早期戦線復帰を図りました。社会的・軍事的必要性の高い人物に医療資源を集中して、軍事・社会システム全体の維持を図る差別型トリアージとなった訳です。

クリミア戦争では、トリアージにより「重傷者」と判定された者は悲惨な扱いを受け、満足な治療を受けられずに不衛生な重傷者用野戦病院で次々死ぬ事態となりました。これを救済したのが、ナイチンゲールでした。

(3)日本軍のトリアージの歴史
明治21年森鴎外がヨーロッパからトリアージのシステムを持ち帰りましたが、明治22年陸軍衛生教程が編纂された時点では、トリアージを導入しませんでした。森鴎外・石黒忠直ら当時の軍医トップは、「トリアージが赤十字国際条約で禁止している差別的治療に当たる」として、日本では導入しない事としたようです。
(注)石黒忠直 陸軍軍医総監(中将相当:明治30年進級)
森鴎外(本名:森林太郎) 陸軍軍医総監(中将相当:明治40年進級)

野戦病院システムは、トリアージを行う事を前提に構築されているためトリアージ無しではシステムが機能しなくなるという問題が有り、日本では「分類はするが、優先順位は付けない」と言うヨーロッパ型トリアージから見ると変形したシステムとなったようです。しかし、「優先順位無し」では不便も多く、大正12年石黒大介 陸軍軍医総監は、「トリアージを行わない建前で、軍医関係者にだけ順位が分かる隠語的な優先順位を付ける方式」へと変化させました。このシステムは、満州事変で本格的に実施されましたが、日本軍解体と共に消滅しました。
日本軍での分類は、下記の通り:

①在隊治療可能な微傷者
②自分で歩ける徒歩可能者
③担架で搬送しなければならない重傷者
④助かる見込みの無い者

(注)石黒大介 陸軍軍医総監(中将相当:昭和11年 進級)元関東軍軍医部長

(4)アメリカ軍でのトリアージの歴史
トリアージは、傷病者数が医療資源を超えてしまう野戦病院において行われて来たシステムで、本来は「医療資源が豊富に有れば行う必要は無い」ものです。医療資源が豊富で医療倫理に反すると考えられたため、アメリカ軍ではトリアージは導入されませんでしが、朝鮮戦争の時に組織的にトリアージが導入されました。

(5)イスラエル国防軍 医療部隊でのトリアージ
イスラエル国防軍の医療部隊が、2010年1月のハイチ大地震で実施した野戦病院(field hospital)での選択について、次のように紹介されています。多数の患者の発生により医療資源が逼迫した状況下における行動指針として、(医学的な話ですが)参考にするべきでしょう。但し、このような野戦病院は、日本では自衛隊が相当すると思われます。
トリアージ基準が厳しいように思われますが、この時の死者数は約316,000人です。

ハイチ派遣イスラエル国防軍野戦病院の規模・条件・結果
●手術台2台、ベッド72床(内ICU 4床)
●ハイチ政府からの医療物資の補給無し
●1,100人/10日間治療

 番号  傷害状態  処置
 1  四肢開放性骨折の早期  入院・手術
 2  四肢開放性骨折で敗血症発症   治療せず
 3  挫滅症候群  透析無く、生存の可能性が低いので治療せず
 4  頭部外傷、脊髄損傷  CT無く、脳外科手術不可のため治療せず
 5  ICUベッド  24時間以内に安定の見込みの場合使用
 6  ベッド  術後翌日退院。手術回数増加のため

尚、野戦病院がより稼働するためには、入院施設の付属が必須です。

◆ 判定基準

トリアージは、一般に以下の判定基準で行われます。

  • 総傷病者数
  • 医療機関の許容量(医療スタッフ数、収容場所、器材、等)
  • 搬送能力
  • 重症度・予後
  • 現場での応急処置
  • 治療に要するまでの時間(治療開始までの余裕時間、等)

◆ トリアージ区分

トリアージ区分(トリアージ・タグ区分)は、下表のようになっています。
トリアージの判定結果は、4色(黒・赤・黄・緑)のマーカー付カードの先端の色で表示します。一般的に傷病者の右手首につけます。衣服には付けません。

  カテゴリ  区分 状態
 黒  0  死亡群または救急不能群 死亡または生命徴候が無く救命の見込みが無い者。
 赤  1  最優先治療群 生命に関わる重篤な状態で一刻も早い処置が必要な者。
 黄  2  待機的治療群 今すぐに生命に関わる重篤な状態ではないが、処置が必要な者。場合により赤(最優先治療群)に変化する可能性が有る者。
 緑  3 保留群 今すぐの処置や搬送不要者及び治療不要者。

◆ トリアージタグの形式と取扱(2016.2.11更新)

従来トリアージ・タグの形式は、日本医師会、自衛隊、消防庁、日本赤十字社等で異なっていましたが、阪神・淡路大震災の後、総務省消防庁によりトリアージ・タグの形式が、全国的に統一されました。

搬送・救命処置の優先順序は、 カテゴリ 1>2>3 です。
カテゴリ0(黒)については、原則搬送・救命処置を行いません。
カテゴリ0(黒タグ)の被災者にとっては、黒タグが唯一の診療記録となり、遺族・家族・保険会社等が参照するものですので、被災状況、受傷状況等関連情報を含め記録して置く必要が有ります。

原則、判断者と記録者の2名1組でトリアージを行う事とされています。
尚、トリアージ者によってその意味は、変わると思います。

・救急隊員が黒タグを付けた・・・搬送優先順序を判断した
・医師が黒タグを付けた・・・・・死亡診断した

tagface300 tagback300

上の写真は、トリアージタグ(日赤でのトリアージ訓練時の物)の表(左側)・裏(右側)です。
実物は、表側上部の白い部分(色の無い部分)が3枚複写になっており、上から
  ①災害現場用(1枚目)
  ②搬送機関用(2枚目)
  ③収容医療機関用(3枚目)
となっています。搬送中や収容先で更に症状を追記したり、変更したりするように出来ています。

トリアージは、下記の理由により複数回行われるのが普通です。
  ①傷病者の流れによりトリアージの目的が異なるため
  ②傷病者の容態は常に変動するため
  ③トリアージの過小・過大評価のため

再トリアージは、次のようにします。
  ①重症化した場合→最初の区分にXを付け、もぎりを追加します
  ②軽傷化した場合→最初のタグに大きくX印を付け、新しいタグを付ける

◆ トリアージの問題点・論点

ここでは「トリアージの問題点・論点」について紹介します。

[論点1] 災害時医療=トリアージ実施医療か?

「全ての患者を救う」と言う医療原則から見ると、トリアージはあまりに例外です。 広域大震災、航空機事故、等により大量負傷者が同時に発生し、現場の医療体制・設備・器材が絶対的に不足した状態、即ち「医療を施す事が出来ない患者が必ず発生してしまう」事が明らかな状態の場合のみ認められるべきで、対応状態(医療スタッフの数・質、器材の整備状況、患者数等)を全く評価せずトリアージを実施すべきではないと思われます。即ち、単純に「災害治療=トリアージ」とすべきではないと言う考えです。

[論点2] トリアージ判定への責任問題

(1)苦痛の訴えと誤判定
(2)軍人・軍属と民間人へのトリアージ誤判定の違い

軍隊でトリアージ判定ミスが発生し、死亡あるいは障害が残ったとしても、患者(軍人・軍属)には国から年金、恩給、名誉負傷勲章等が送られ補償が行われます。トリアージ担当医官に対しても、任務遂行上で重大な過失が無い限り、責任追及をされることも無く、個人から訴えられる事も有りません。

しかし、災害時トリアージ医療においては、死亡患者家族から「黒でなく赤判定にすれば、助かったはずである」と訴えられる可能性が有ります。そもそもトリアージ担当医の判断は、法的処分の対象になるのか不明ですが。
ましてや、医療救護所が出来る前の避難所において、避難所の住民(運営委員会委員)による暫定トリアージにおいては、提訴される可能性は高いと思わざるを得ません。そのため行政側では、「住民によるトリアージ」と言う文言を極端に嫌っている所も有ります。

現在、トリアージ後の責任問題等についての具体的な法制度、救済制度は、有りません!

[論点3]トリアージ後の検視は必要か?

トリアージ実施後、トリアージ判断結果を検視等により検証すべきか否かも未定です。トリアージを実施する状態では、そもそも医療関係者が絶対的に不足しており、そのような時に(救命・救助に無関係な)検視をしていた場合、住民・避難者から避難を浴びるだけだと思われます。
しかし、法的責任追及の可能性が出て来るなら、何らかの検視(またはそれに代わる何らかの対策)が必要になると思われます。

[論点4] 再トリアージ実施基準が無い (2016.2.11更新)

トリアージは、災害現場、搬送時、医療救護所、医療機関等で実施されます。それぞれの場所での医療人員、医療器具、等の充足状況等も異なり、どの時点で再トリアージを実施すべきか非常に難しい問題だと思います。一概に実施基準を設定しても実現度合いが、想定できません。